一強王国で、和平を頑張っていた人がいた

鮮やかな王国を背景に、巻物を持ったインド風の使者が勢力の間を橋渡ししようとしているイラスト ゲーム観察

王国が荒れていた理由

これまでの記事では、同盟チャットの居心地とか、毎日誰かに会う感じとか、同盟が会社っぽくなる話を書いてきた。どちらかというと、ゲームの中の小さな社会の面白い部分を書いてきた。

でも今回は、少し違う話をする。

私が最初にいた王国は、仲があまり良くなかった。その理由を、少し説明しておく。

キングショットでは、ひとつの王国の中に数十の同盟があって、資源や施設を取り合う仕組みがある。その中で、上位3つくらいの同盟が拮抗している状態が、王国としては一番バランスよく発展しやすい、というのがひとつのセオリーだ。

強い同盟が複数あれば、お互いに競い合いながら戦力を伸ばしていける。施設や報酬も一部に偏りすぎず、王国全体としての熱量も保ちやすい。

上位3つの同盟が競争と成長を通じてバランスよく関係していることを示す王国の図解

私の王国は、そうではなかった。1位の同盟が圧倒的に強く、2位以下との戦力差がかなり開いていた。課金ゲーなので、お金をよく使うプレイヤーが1位の同盟に集まりやすい。そうなると、王国内の資源も施設も、1位がほぼ独占する形になる。残りの同盟は取り分が少なくなって、不満が溜まっていく。

解決策としては、1位の強いメンバーが他の同盟に分散すればバランスが取れる。でも、みんな自分の同盟への愛着がある。そう簡単には動けない。

そして、当時の国王が競争に対して真摯な考えを持っていた。純粋にゲームとして強さを競うべきで、バランスを人為的に調整、いわゆる談合することには否定的だった。その考え自体は筋が通っている。でも、結果として他の同盟との歩み寄りが難しくなっていた。

当時、王国内には、戦力上位の同盟の幹部や代表が入っているグループチャットがあった。私もある同盟の幹部としてそこに参加していたので、「もう少し周りに分け与えた方がいい」という話をしたことがある。国王もだんだん方針を変えようとしていた。でも、恨みが溜まりすぎていて、時すでに遅しという感じだった。

増えない王国で、今いる人と仲良くするしかなかった

もう一つ、この王国の難しさに関係する話がある。過疎化だ。

キングショットは、常に新しいサーバーが立ち上がっていて、規定の人数が集まったら締め切る仕組みになっている。日本人向けの推奨サーバーもあって、ゲームを始めるときは新しく立ち上がったサーバーからスタートするのが基本だ。

古いサーバーに途中から入ることは一応できる。でも、時間が経つほどそのサーバーの人たちは強くなっているので、途中参入は戦力的にかなり不利になる。実質的に、新規プレイヤーが増えることは見込めない。

つまり、人が離れていく一方で、増えることはない。

祝祭のあとに人が減り、冒険者たちが静かな王国の通りを歩いていくイラスト

私がいた王国は、夏休みのタイミングでスタートしたらしい。だから最初は学生のプレイヤーが多かったんだと思う。夏休みが終わるとゲームをやめてしまう人が増えて、一気に過疎化が進んだ。それが国王の責任だという声も出て、さらに空気が悪くなっていった。

リアルの社会なら、新しい世代が生まれて、人が入れ替わって、状況が変わっていく。でもこのゲームのサーバーは、今いるメンバーで何とかするしかない。気が合わなくても、揉めていても、今いる人と仲良くやっていくしかない。

そういう閉じた状況の中で、王国はギスギスしていた。攻撃し合っているわけではない。でも、空気が重い。世界チャットにちょっとしたヘイトが流れる。普通に遊びたい人ほど黙るようになる。

そんな状況の中で、一人、妙に精力的に動いている人が現れた。

その人のやり方が、すごかった

その人は、もともとその王国にいた人ではなく、途中から移民してきたプレイヤーだった。

インド系のプレイヤーらしき人で、話していると、かなりきちんとした教育を受けてきた人なんだろうな、という印象があった。生活にも余裕がありそうで、話題の広げ方にもどこか文化的な厚みがあった。頭の回転も速いし、人との距離の取り方もうまい。本人曰く医療関係の仕事をしているような話もしていた気がする。

女好きだと公言していたけど、それはまあ置いておいて。

その人がすごかったのは、王国に移民してきたあと、そこがかなり揉めている状態だと知ってからの動き方だった。

普通なら、「この王国、空気悪いな」で終わると思う。黙って遊ぶか、別の王国に移るか、関わらないようにするか。そのくらいが自然だ。

でもその人は、もう一度この王国を一つにしようとしていた。

わざわざ主要な同盟に一つずつ引っ越して、それぞれの同盟のメンバーと友達になって、話を聞いて回っていた。A同盟に入って事情を聞く。しばらくしてB同盟に移って、そちらの言い分を聞く。また別の同盟に移って、また話を聞く。

各同盟の言い分を直接聞いて回る、という方法で仲裁しようとしていたわけだ。

世界チャットでも、仲良くしようという趣旨の呼びかけをしていた。啓蒙活動、と言えばいいのか。荒れたチャットに、ポジティブな言葉を投げ続けていた。

そんな面倒くさいことを誰がやるんだ、という話で、王国内では「もしかして運営の人なの!?」と疑われていた。本人は否定していたけど、真相はわからない。

外から来た人だから、届いた言葉もあったかもしれない

その人と私は、仲が良かった。

日本の文化にすごく興味を持ってくれていたし、インドの文化も話してくれた。ゲームの中で異文化交流をしていた、というのは少し変な言い方だけど、実際そういう感じだった。

その人が活動しやすかった理由の一つに、外国人だったことがあると思う。

日本のサーバーで、日本語が十分に通じるわけでもない海外プレイヤーが、ポジティブな活動をしている。日本人同士だと「なんであいつが仕切ってるんだ」という反発が出やすいかもしれないけど、外から来た人に見える相手だと、そこが少し和らぐ。

もちろん、言葉の壁もあるから、細かいことを言うのが面倒、という面もあったと思う。でも結果として、数ヶ月間、かなり継続して活動していた。

揉め事があると、ほぼ必ず仲裁に入っていた。うまくいかないことも、もちろんあった。でも、あの人が動いている間は、王国の空気が少しだけ違った気がする。

対立する勢力の間に立ち、インド風の使者が両側へ語りかけて仲裁しようとしているイラスト

一強状態で、誰かが何かを言える構造ではなかった

少し立ち止まって、この状況を整理してみる。

リアルの世界でも、資本や軍事力が集中したところが有利になるのは自然な話だ。国際社会でも、強い国が主導権を持って、弱い国が文句を言っても構造はそう簡単には変わらない。ゲームの王国で起きていたことは、別に珍しい話でもなかった。

ただ、ゲームの中には世界チャットという全体に見えるツールがある。不満のちょっとした一言が、全員に見える形で流れる。リアルなら声にならなかったものが、チャットには残る。

そういう意味では、ゲームの王国は現実の社会より、ずっと正直に空気が見える場所だ。誰かの不満が、ちゃんと言葉になって流れてくる。

だからこそ、その王国を治めるのは、現実の政治より難しい面がある、と思った。強いところが全部取っても文句は言えない、という論理だけでは、チャットの空気は持たない。なるべくみんながハッピーになるように動かないといけない。ゲームなのに、かなり高度な政治が要求される場所だった。

その難しさの中で、一人の外国人プレイヤーが、誰も頼んでいないのに動いていた。

善意だけでは、王国は変わらない

正直に書く。

ひとりの善意だけで、荒れた王国を変えるのは難しい。構造の問題があって、国王の方針の問題があって、課金による戦力差の問題がある。それを一人の仲裁者がどうにかできるかといえば、限界がある。それはたぶん、その人も知っていたと思う。

それでも動いていた、ということが、私にはずっと印象に残っている。

リアルの世界でも、職場でもコミュニティでも、場が荒れたときに「仲良くしようよ」と動ける人はそう多くない。面倒だし、消耗するし、報われるかどうかもわからない。だからたいていの人は黙るか、離れるか、攻撃し返すかになる。

それをゲームの中でやっていた人がいた。しかも、かなり本気で。そこに私は少し驚いた。

王国を良くするのも悪くするのも、かなりの部分がそこにいる人たちに委ねられている。だからこそ、世界チャットで啓蒙活動をしたり、同盟を渡り歩いて話を聞いたり、揉め事の間に入ったりする人が現れる。

成功したかどうかは、また別の話だと思う。ただ、そういう動きができる余白があること自体が、このゲームの面白いところでもあり、危ういところでもある。

その人がどうなったか、という話は次の記事に書こうと思う。

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