攻略情報だけが流れているわけじゃない
同盟チャットには、攻略情報が流れる。
朝にチャットを開くと、「今日はこれをやる日だよ」と、その日のゲーム内スケジュールや注意点を教えてくれる人がいる。そういう情報はもちろんありがたい。何も知らずにログインしていたら見落としていたことが、チャットを見ていれば自然に入ってくる。
でも、同盟チャットに流れているのはそれだけじゃない。
「あのお菓子めっちゃおいしかった」
「何てお菓子?」
「それ知ってる」
「私それ食べたことない」
「今から牛丼屋入ります」
「チーズ牛丼好き」
「俺はキムチ牛丼派!」
「風邪ひいたっぽいかも?今日は早めに寝ます」
「無理しないでね」
「お大事に」
こういう話が、普通に流れていく。攻略的には何の意味もない。戦力が上がるわけでも、イベントが有利になるわけでもない。
でも、読むと「あ、この人今日外に出てたんだな」とか「体調崩してるんだ」とか、なんとなくわかる。顔も本名も知らない相手の、生活の断片が少し見える。
それが、同盟チャットに「人の温度」みたいなものを作っているんだと思う。
しょうもない会話から、その人を想像する
こういう会話が積み重なってくると、気づくとその人のことを少し想像するようになっている。
この人はこのくらいの年齢なのかな。こういう仕事をしているのかな。こういう生活をしているのかな。
もちろん、答えは出ない。みんな名前も適当だし、年齢も職業も言っていなければわからない。「牛丼屋に入ります」という発言から推測できることなんて、せいぜいその人が今日の夕食を牛丼にしたことくらいだ。
それでも、断片が積み上がるうちに、自分なりのイメージが加わって、ただのハンドルネームとアイコンだった相手が、少しずつ輪郭を持ち始める。そこが面白かった。
リアルだと、顔や声や雰囲気がある分、最初からある程度わかってしまう。テキストだけのやりとりには、その分だけ想像の入り込む余地がある。
正解には近づけないけど、それはそれで悪くない気がした。

何度も見る人に、親しみが湧いてくる
心理学に「単純接触効果」という話がある。接触回数が増えるほど、その対象への親しみが増す、というやつだ。
日常でも思い当たることがある。最初は特に仲良くなかった職場の人が、何ヶ月も何年も顔を合わせているうちに、気づいたら普通に話している。長い時間を一緒に過ごしたわけじゃなくても、回数が積み上がると、自然と親しみが出てくる。
同盟チャットでも、それに近い感覚があった。
毎日ログインするたびに、同じハンドルネームが流れてくる。いつも「おはよう」と言う人。仕事終わりに顔を出す人。よく話題を振ってくれる人。何か言うとリアクションをくれる人。
ゲーム内では、顔も見えないし声も聞こえない。テキストとハンドルネームだけだ。それでも、毎日同じ人の発言を見るうちに、「この人今日いないな」と思うようになっている。
名前も知らない。会ったこともない。それでも、毎日同じ名前や発言を見ているうちに、ただのハンドルネームだった相手が、少しずつ輪郭を帯びてくる。
顔も名前も知らないからこそ、ちょうどいい
リアルの友人には、言えないことがある。職場では、見せたくない部分がある。家族には、心配させたくないから話さないことがある。
同盟のメンバーは、その全部から外れている。本名も知らない。どこに住んでいるかも知らない。
対面だと、相手の顔を見ながらその場で何かを返さないといけない。表情を読んで、聞いている姿勢を取る必要もある。それが構えにつながることがある。
テキストなら、寝転がりながら読んでもいいし、あとから返してもいい。そのくらいの軽さがあるから、「無理しないでね」「お大事に」みたいな言葉が、するっと出てくることがある。
顔が見えないと冷たくなることもある。それはそう。でも、その軽さが逆に働くこともある。
近すぎず、遠すぎない。その距離感が、妙に楽だった。
誰かの日常の一部になっていた
美談にするつもりはないので、さらっと書く。
仕事がかなりしんどかった時期に、同盟のみんなと話すためにログインしていた、という人がいた。ゲームが楽しかったというより、あの場所に人がいたから、という感じで。
自分自身がそこまで強くそう感じていたかというと、正直そこまでではない。でも、そういう場所になっていた人はいた、ということは確かだと思う。
支え合っていた、というほど大げさなものじゃない。ただそこに人がいて、しょうもない話が流れていて、それが普通の日常に混じっていた。それだけのことなんだけど、それがある場所とない場所では、ゲームの続け方がだいぶ違う。
しょうもない雑談に見えても、それが誰かの日常を少し支えていることがある。
重要な話だけでつながっているわけじゃない
「今から牛丼屋入ります」は、誰にとっても重要じゃない。
きちんとした連絡や攻略情報は、必要があれば流せる。でも、くだらない話は、空気が悪い場所には流れない。誰かが「あのお菓子おいしかった」と言えるのは、それを言っても大丈夫だと思える場所だからだ。
テキストチャットは、リアルの会話より軽い。あとから読めるし、返しても返さなくてもいいし、スタンプひとつでも反応になる。その軽さがあるから、しょうもない話が毎日流れていた。
くだらない話が流れている場所は、それだけでけっこう強いと思っている。
同盟チャットが妙に居心地よかったのは、攻略情報が便利だったからだけじゃなくて、くだらない話をくだらないまま流せる場所だったからだ。たぶん、それが一番大きい。

